選択式試験の出題形式が得点分布に影響している
㊤の項からの続きです。選択式試験における合格基準点の引き下げについて、さらに掘り下げて考えていきます。
労一(労務管理その他の労働に関する一般常識)の選択式でいわゆる救済が行われにくい理由は、㊤の項で述べたように0点~1点の得点者層が少ないことによるものです。そして、受験者の得点分布がこのようになる理由の一端は選択式試験の出題形式にあります。
通常の出題形式はA~Eの5つの空欄を20の語群の中から選択して解答するというものですが、まず、この語群の構成に特徴があります。全部で20ある語群は、5つの空欄それぞれの解答候補となりうるものが概ね4つずつとなるように設定されているのです。
このことは、20の語群を正しく5箇所×4候補にグルーピングできれば、問題が実質的には4択問題となることを示しています(注:全ての問題がこのようにグルーピングされるわけではありません)。
問題によっては初めから5つの空欄が全て4択形式での語群選択となっている場合もあります。労一では平成23・25・27・28・29年度、令和3年度がこの形式での出題でした。
つまり、この選択式試験においては、難問が出題された場合やほぼ無勉強で試験に臨んだ場合であっても、25%の確率で偶然正解ができてしまうのです。この偶然正解率の高さが0点~1点の得点者層を殊の外少ないものにしています。
出題された5つの空欄の中に1つでも容易に判断のつく空欄がある場合は、この層の得点者割合はさらに低いものとなります。
このような結果、実力者が難問に手こずって3点の得点を確保できない中にありながらも、得点調整は行われないということになるのです。
独学者の増加によって合否予測はより見えにくいものに
近年の社労士試験の受験事情は、独学用の書籍が充実してきていることもあって独学(または準独学)の受験生が相当数に増えてきています。
例年、大手の資格スクールを中心として、本試験の直後から受験者の自己採点と解答状況を集計しての合格基準点予測が行われていますが、近年はこの予測に各受験機関が非常に苦慮しています。
なぜならば、この自己採点集計に独学受験生の方が参加されない場合が多いことから、独学者の増加と共に受験者全体の得点状況が見えにくいものになってきているからです。
ここにスクールのボーダー予測と実際の試験結果の間の乖離が生じます。まさかの科目で合格基準点の引き下げが行われていることがあるのはこの例です。
資格スクールの講義を受講していない独学者の得点状況や得意・不得意の別は、講座受講生のそれとは異なります。ゆえに、知識量に勝るスクールの成績上位者が深読みから誤答に至る問題を、独学者がシンプルに考えて正解するということも普通に起きるのです。
合格発表日は科目別の合格基準点に注目
11月の合格発表日になってみるまでは、何がどうなるかがわからないのが社労士試験です。
10月から初めて学習を開始したという方は、開始して間もなくにこの合格発表があります。自分自身が受験していない試験であっても、合格基準点の引き下げの有無と実施科目については注目して見ておいてください。
そのことと同時に、選択式試験という出題形式の恐さについてもここで十分に認識しておく必要があろうかと思います。
「合否結果そのものはもう見なくてもわかっているよ。」という方にとっても合格発表の結果は関心事項になります。
試験終了直後に感じたことを思い出して、そのときの感覚と結果としての受験生データの間にどれだけの乖離があるかを確かめてみてください。
このことが来年に繋がる考察になります。
« 社労士試験の本質に戻る