試験と実務との間には大きな乖離がある
社労士試験を受験する方の多くは、仕事を持っている社会人受験生です。
(参照ページ:「合格者属性から探る試験の難易度」 合格者の職業別構成)
受験生の方の中には、この仕事が少しでも試験内容に関連のあるものであれば後々のために役に立つのではないか?として、例えば社労士事務所などへの転職を考える方がいらっしゃいます。
しかし、こと試験との関連だけで言えば、社労士事務所に勤務していることや給与計算や手続業務を長年担当していることが受験上のアドバンテージになることはありません。
また、法学部を卒業していないことや人事総務の経験のないことが、受験で不利に働くこともありません。
なぜならば、試験と実務とは全くの別物であるからです。
そして実際に、社労士試験で問われる内容と実務の間にはかなりの乖離があります。
仮に社労士実務を社労士試験の問題にすると、一例として次のような問題になります。
【問題】 次の1~5の中で、誤っているものはどれか。
1.雇用保険被保険者離職証明書の事業主印欄に用いる印鑑は、雇用保険適用事業所設置届の登録印である必要はない。
2.介護休業給付金支給申請書にある払渡希望金融機関欄の確認印欄を社労士が金融機関で受ける場合には、申請者本人の委任状の添付を要する。
3.雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書の帳票は、ホームページからのダウンロードによって取得することはできない。
4.労働保険名称、所在地等変更届に添付する登記簿謄本の準備ができない場合は、会社移転の事実がわかる移転案内やホームページのコピーで代用できる。
5.労働保険事務組合に事務処理を委託していた会社が、委託解除をして個人の社労士に以後の事務処理を委託する場合には、改めて保険関係成立届の提出を要する。
この問題の正解は2.です。(この場合は社労士が申請書だけを持って窓口で確認印を受けることができます。)
実務経験のない方にとっては、「何だこの問題は?」という感じの問題ではないでしょうか?
受験スキルに実務経験も年齢もない
上の問題で問われている内容は実務を行う中で身につくものではありますが、社労士試験では殆ど役立たない知識です。
逆に実務では、社会保険審査会の定数や特例老齢年金の支給要件が問題になる場面はまずありません。
仮にこれらの知識を人前で披露したとしても「詳しいですね」の一言で終わる話でしょう。
このように、試験と実務では必要とされる知識がかなり違います。
近年では多分に実務的な内容を含む事例問題なども出題されてはきていますが、それでも年度更新の申告書を実際に書かせるといった問題はありません。
極めて受験的な内容であり、時に世の中の実態とは離れている法令が試験の出題の中心です。
実務経験や年功キャリアを受験に活かしたいという意欲は結構なのですが、実務と試験の関係についての認識を正しく持っていないと、この経験は逆に学習の妨げとなってしまいます。
また、これも当然のことですが、仮に社労士事務所などに転職をした場合であっても、その場所で求められるものは受験生としてのスキルではありません。
受験生としてのスキルは、社会経験のない学生の方であっても第1級のものを(たとえそれが机上の空論と笑われようと)自宅で身につけることができます。
試験の世界では、全員が初心者スタートであることを銘記しましょう。
受験知識と実務知識とは別物です。
そして、受験知識の中には世間の実情と乖離しているものがあります。
「実務ではこうなのに…」などと考えて、ここに疑問を感じたり、異論を唱えたりすることは、少なくとも試験で合格点を取る目的においては意味がありません。
この割り切りができることが重要です。
①試験に受かりたいのか?
②実務に習熟したいのか?
③労働社会保険諸法令を研究したいのか?
④暮らしの法律を嗜みたいのか?
⑤知的好奇心を満たしたいのか?
一口に受験生と言っても様々な方がいらっしゃいます。
これらがどう異なるのかがわかれば、①の目的で行う学習の態様は明らかなはずです。
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