超長文の条文がそのまま出題される選択式試験
㊤の項では、テキスト等で条文をきちんと読むことを軽視すると、条文表現がそのまま選択式試験で出題された場合に対応が困難なものになるということを、雇用保険法の平成23年度の試験問題を題材に説明しました。
今度は平成26年度の問題を見てみます。
雇用保険法第56条の3第3項において、就業促進手当の額は、厚生労働省令で定める安定した職業に就いた者であって、当該職業に就いた日の前日における基本手当の支給残日数が当該受給資格に基づく所定給付日数の3分の1以上であるものについては、基本手当日額に支給残日数に相当する日数に [ C ] (その職業に就いた日の前日における基本手当の支給残日数が当該受給資格に基づく所定給付日数の3分の2以上であるもの(早期再就職者という。)にあっては、 [ D ] )を乗じて得た数を乗じて得た額(同一の事業主の適用事業にその職業に就いた日から引き続いて6か月以上雇用される者であって厚生労働省令で定めるものにあっては、当該額に、基本手当日額に支給残日数に相当する日数に [ E ] (早期再就職者にあっては10分の3)を乗じて得た数を乗じて得た額を限度として厚生労働省令で定める額を加えて得た額)とされている。
この問題文をよく見ると長~い1文になっていますが、こうした長さこそが条文そのまま問題の特徴です。
正解は、C:10分の6、D:10分の7、E:10分の4 です。
「問題文の指し示している給付が、何のことであるかがわからない。」という方は、この問題がまさに条文のままで出題されている点にそのように感じる理由があります。
答案解答の技術とは条文読みの技術でもある
この問題文の構造のみを簡潔に整理してみます。
就業促進手当の額は、安定した職業に就いた者であって、
【1】再就職手当
基本手当の支給残日数が所定給付日数の
(1)3分の1以上のものについては、基本手当日額に支給残日数に [ C ]
(2)3分の2以上のものにあっては、基本手当日額に支給残日数に [ D ]
を乗じて得た数 を乗じて得た額。
同一の事業主に引き続いて6か月以上雇用されるものにあっては、
【2】就業促進定着手当
基本手当日額に支給残日数に
(1)[ E ]
(2)早期再就職者にあっては10分の3
を乗じて得た数 を乗じて得た額を【1】に加えて得た額
とされている。
この問題文には、日頃の学習では見落としがちな手当の総称としての「就業促進手当」という表記があるのみで、馴染みのある手当の具体名としての「再就職手当」や「就業促進定着手当」といった表記がないのです。
このことが、一見楽勝そうに見えるこの問題を、1つ躓いたときに思わぬ誤答を引き起こすこととなる危険性をはらんだ問題にしています。
ちなみに、令和元年度の択一式試験の問6ーCでも、この就業促進手当が再就職手当を指すものとして出題されています。
選択式試験では法令や判例の原文が出題されるという認識を持って、条文にあたる労を厭わないことが大切であることが、この問題からもわかります。
学習を簡易に済まそうとした結果があと1年の学習期間の延長に繋がっては、悔やんでも悔やみきれません。
過去の出題実績から心に刻んでおきましょう。
択一式試験で条文がそのままの形で出題された場合、選択肢の長さは総じて長いものとなります。
試験会場でこれらの条文を初めて読むような状態では、選択肢の精読が必要となって時間切れとなることが必至です。
時間切れを防止するためにも、事前学習の段階から条文を読んでおくことが不可欠です。
条文は「最も精緻に作られた悪文」だと言えます。
多くの内容が過不足・矛盾なく盛り込まれ、日本語として破綻していない超長文の1文は、その完璧さ故に、受験生にとっては非常に読み辛いものとなっています。
最初は括弧書きを飛ばして読む、平易な言葉に変換して要旨を掴む。
段階的に臨むことです。
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