単に過去問を繰り返すだけでは合格点は取れない
「10科目のテキストを完全理解することを諦めた受験生は、学習方法に過去問や予想問題などの問題演習を繰り返すことを選び、それに終始した結果として本試験では合格点がとれていない。」
Chapter 1の「学習開始時に究極のミッションを設定する」ではこのことを指摘しました。
テキストの完全理解という不可能に近く、また達成度合いの見えない学習よりも、正答を求めるゲーム感覚で進められる問題演習に効率的な面で価値を見い出す受験生の心理はよくわかります。
ですが、問題演習を数多くこなすことによっては、現在の社労士試験で合格点を確保することは極めて困難です。
なぜならば、問題演習を繰り返すことによって合格点が取れるようになる試験というのは、過去問とほぼ同じ問題が繰り返し出題される類の試験であるからです。現在の社労士試験はそのような試験ではありません。
過去問学習が不要だと言っているのではありません。テキストを脇に追いやって過去問学習のみに「終始すること」の危険性を述べています。むしろ、過去問は現在でも大変に重要なものです。
過去問で問われた”要素”を習得することが重要
問題演習至上主義が本試験に対応できない理由は、試験範囲の網羅性を欠くという内容面の弱さにありますが、それだけではありません。
本試験である論点について問われた際に、過去問とは違う問われ方がされた場合の反応が鈍くなるという形式面での弱さがあります。
社労士試験とは直接関係のない簡単な事例で説明します。例えば、ある同じ論点について、3年連続で次のような問題が出題されていたとします。
★ 昨年の出題: 男20歳・女15歳は婚姻不可 ⇒正解は○
★ 今年の出題: 男25歳・女18歳と、男17歳・女20歳は共に婚姻可 ⇒正解は×
問題演習に終始する学習法とは、この設例のパターン(年齢)と正誤の組み合わせを覚える学習法とも言い換えられます。
過去問の正答率にこだわる受験生が多いですが、こだわるべきはこの3年分の問題の正誤ではありません。テキスト記載の論点「男18歳以上・女18歳以上で婚姻可(2022年4月改正民法)」という1点を正確に言えるかどうかです。
この点を正確に口に出して言える場合には、この3問をその後に何回も繰り返し解く必要はありません。その後の学習の中心は、この論点を時間が経っても正しく言えるよう、テキストで周辺論点を含めて定期的に確認することに移すべきです。
過去問を○回転させたなどということに大きな価値を見い出すことのないようにしましょう。
問題演習を繰り返す学習を主としてきた場合には、受験した年にこのような過去問にない問われ方がされた場合に反応できないわけです。もしくは、解答に思いの他時間がかかってしまい、その結果、他の問題の解答時間に(ひいては合否に)影響を与えることとなります。
過去問を”解く”という使い方は3回までにしておくことが、惰性や自己満足に陥らない限界点であるという目安を持っておきましょう。
過去問の正答率を高めることは不可欠のステップではありますが、それが合格の必要十分条件ではないということを、ここでは認識しておいてください。
これまでの受験歴を通じて、同じ過去問に5回以上も触れているという方は、フレーズの暗記に留まっていないかに注意してください。
聞かれ方や文章表現の異なる問題を「捻られた」と感じるのは、過去問をただフレーズで暗記しているだけだからです。
解くことよりも論点を挙げられることが重要です。
過去問は、膨大な量の条文や通達、判例などの中から出題される知識群をQ&A形式で印象深く身につけるためのものです。
脳に印象づけるべきは知識群であって、問答そのものではありません。
本試験で択一式が30点代前半までの方は、学習の時間面や計画面よりも学習の意味性を考え直すことが必要です。
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